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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)233号 判決 1975年12月09日

原告 光風企業株式会社

右代表者代表取締役 仲西利昭

右訴訟代理人弁護士 徳矢卓史

同 徳矢典子

被告 アオイ興産株式会社

右代表者代表取締役 田嶋甚併

右訴訟代理人弁護士 中筋一朗

同 益田哲生

同 荒尾幸三

主文

被告は原告に対し金七四六万三、四五六円及びこれに対する昭和四九年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。この判決は原告において金一五〇万円の担保を供するときは原告勝訴部分に限り仮に執行できる。

事実

第一当事者の申立

一、原告

1  被告は原告に対し、金八二三万五、八一〇円及びこれに対する昭和四九年二月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、原告の請求の原因

1  原告は宅地造成並びに分譲、高級住宅建築並びに分譲等を業とする会社であり、被告は土地開発、売買等を業とする会社である。

2  原告は昭和四七年八月二五日被告との間に別紙目録記載の土地二八筆公簿面積合計一三、七四二・〇六平方メートル(四、一六四坪二合六勺、以下本件売買土地という。)を代金二億二、八六四万三、二五〇円(公簿面積による坪当り五万五〇〇〇円)、手付金代金の一割、残代金を同年一〇月九日支払い、同時に所有権移転登記手続をすること、取引は公簿坪数によること、最終取引日の前日までに境界立合い、杭の確認をするとの約定で売買契約を締結した。

3  原告は被告から本件売買土地の範囲、境界の明示を受け、右土地の範囲を別紙図面赤線で囲まれた部分と指定、特定を受けてその引渡を受け、残代金を支払った。

4  ところが、原告が被告から境界明示、範囲特定のうえ引渡を受けた土地の中に宇治市槇島町吹前一〇七番二三、畑四九五平方メートル(以下単に一〇七番二三の土地という。)が含まれ、右土地は他人である泉勝次の所有に属することが、昭和四八年二月にいたり判明した。

5  原告は、本件売買契約締結当時はもとより、最終取引日時においても売買の目的たる土地の一部が他人の権利に属することを知らなかった。

6  しかして、一〇七番二三の土地は本件売買の目的たる土地のほぼ中心より少し西側部分(別紙図面赤斜線表示部分)に位置し、このため本件売買土地全体の使用効率が著しく減殺し、原告の買受目的を到達することができないことも明らかな状況にあるため、原告は泉勝次と交渉のうえ代金一、一〇五万円を支払い一〇七番二三の土地の所有権を取得した。

7  原告は被告に対し、昭和四八年一〇月六日付書面で民法五六三条一項の類推適用による売買代金二億二、八六四万三、二五〇円を購入土地面積一万三、七四二・〇九平方メートル(公簿面積)で割った一平方メートル当り一万六、六三八円に不足面積四九五平方メートルを乗じて算出した不足分の割合に応じた代金減額分八二三万五、八一〇円の代金減額請求の意思を表示し、右書面は同月八日被告に到達した。

8  仮に右民法五六三条一項による請求が理由ないとしても、被告は他人の土地を売買の目的としたことになり、本来その権利を取得して原告に移転する義務があるところ、原告の努力及び代金一、一五〇万円の出捐により当該土地の一部の所有権が原告に移転したもので、被告は八二三万五、八一〇円相当を不当に利得している。

9  よって、原告は被告に対し民法五六三条一項により、予備的に不当利得返還請求権により、八二三万五、八一〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四九年二月一六日から完済まで年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求める。

二、被告の答弁及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  本件売買土地の範囲を別紙図面赤線で囲まれた部分と指定、特定したとの事実は否認し、その余の事実は認める。

4  同4は否認する。被告が原告に売渡した土地は二八筆の本件売買土地であり、一〇七番二三の土地は売買の目的とされていない。

5  同5は不知。

6  同6のうち一〇七番二三の土地が本件売買土地のほぼ中心より西側部分に位置するとの事実は否認し、その余の事実は不知。

7  同7の事実は認める。

8  同8、9は争う。

9  被告が原告に売渡した本件売買土地二八筆中別紙目録記載1ないし27の土地二七筆は、昭和四六年一一月一六日共有者久保啓一、宇治製薬株式会社、青柳信から、同記載28の土地は昭和四七年一月一一日中井研二からそれぞれ境界の指示を受け被告において買受け、これをそのまま原告に売渡したものである。本件売買は公簿面積による取引で、二八筆の土地の境界を被告吉岡営業部次長において口頭で示したが、実測は行わず、境界石、杭等も丹念にあたって示すこともせず、従って被告が原告に売渡した土地の範囲は公簿上の地番により客観的に定まる一定の地域の土地に重きを置き売買がなされたもので、従って一〇七番二三の土地は売買の目的に含まれず、仮に被告が本件売買土地の境界を誤って指示し、第三者の土地が含まれていたとしても、なんら売買の目的たる権利の一部が他人に属するとはいえない。

第三証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因1、2、7の事実及び、同3のうち原告が本件売買土地の引渡を受け、残代金を支払ったことは当事者間に争いがない。

二、≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

1  本件売買土地は被告において昭和四六年一一月一六日右土地のうち別紙目録記載1ないし27の各土地を共有者久保啓一外二名から、同目録記載28の土地は同四七年一月一一日中井研二からそれぞれ買受けたが、右買受け当時久保啓一外二名共有の二七筆の土地の各地番の境界については登記所備付の字図等の図面に記載のない地番の土地もあり、各個の土地の位置、境界も必ずしも明らかでなかったことから、各地番の土地の範囲、境界について具体的に指示特定を受けることなく、また一括して二七筆の土地を買受けるため、各土地の位置境界に考慮の必要も右二七筆の土地全体につき周辺土地との境界を右久保から指示特定を受けて買受けた。

2  本件売買土地はその南側は堤防敷の下、北側は町道敷までとその南北の境は地形上おおむね明らかであり、原、被告間の本件売買締結に際し、被告会社営業部次長として被告を代理して本件売買契約締結及びその交渉をする権限を有していた吉岡昭二は原告営業部長仲西義一を現地に案内し、本件売買土地の範囲として久保外三名から買受けた際指示特定された範囲と同一の別紙図面赤線で囲んだ部分を口頭で指示し、さらに本件売買契約の約定に従い、最終取引日の前々日である昭和四七年一〇月七日頃原告は右吉岡の立会指示にもとづき今井設計事務所に本件売買土地の周囲である別紙図面赤線で囲まれた部分の各角隅に木製の境界杭を打たせ、同月九日右範囲の土地を本件売買土地として引渡を受けるとともに所有権移転登記手続を受けた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件売買契約における本件売買土地の範囲について、原告は被告営業部次長として本件売買契約締結の代理権限を有する吉岡昭二から別紙図面赤線で囲まれた土地の範囲内と指示特定を受けて引渡を受けたものというべきである。

三、≪証拠省略≫によると、次の事実が認められる。

1  原告は本件売買土地を被告から買受けその引渡を受けた後、宅地造成の必要から、右土地の東側及び西側境界につき隣地所有者との間に境界確認のため立会を求め、右土地の境界については被告の指示特定した線に差異はなかったが、隣地所有者から本件売買土地の範囲内に第三者である泉勝次所有の土地が存在する旨聞き知らされ原告従業員橋本健一郎において宇治市農業委員会等において調査したところ、登記所備付の字図上宇治市槇島町吹前一〇七番一二(以下単に地番のみで略称する。)と表示されている土地は、一〇七番一二田、池一反二畝四歩と一〇七番一五田、畑二反三畝一九歩に分筆され、右一〇七番一五(別紙図面青線で囲んだ部分の土地)はさらに一〇七番一五田畑三畝二三歩と一〇七番二一ないし二五にそれぞれ分筆され、一〇七番二三田畑五畝歩は泉勝次の所有に属し、右土地は別紙図面赤斜線部分に所在し、被告から指示された本件売買土地のほぼ中央部分に位置することが判明した。

2  原告は本件売買土地を宅地造成のうえ建売住宅を建築して土地とともに分譲販売の目的で買受けたところ、右土地の中央部分に四九五平方メートル(五畝)の他人の所有地が存在するのでは土地買受の目的が著しく減殺されるため、昭和四七年一〇月頃以降被告に対し一〇七番二三の土地を泉勝次から所有権を取得してその所有権を原告に移転するように求めたが、被告においてこれに応じないため、昭和四八年三月二七日やむなく一〇七番二三の土地を泉勝次から代金一、一五〇万円で買受け、その所有権を取得した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

四、以上認定の事実によれば、本件売買契約の目的となった土地の一部が他人の所有に属していた場合に該当するものというべきである。もっとも、前示争いのない事実に以上認定の事実によれば、本件売買契約の目的とされた土地はその地番の表示のうえでは別紙目録記載の二八筆の土地で、右土地に一〇七番二三の土地の地番が含まれていないことが明らかであるが、前示認定の事実からすれば、被告営業部次長吉岡昭二は被告が久保啓一外二名の共有者から買受けた二七筆の土地の範囲内に泉勝次所有の一〇七番二三の土地が存在することを知らず、右土地部分も二七筆の土地の範囲に含まれると考え、一〇七番二三の土地部分も含めて原告に本件売買土地範囲内であることを明示特定して売渡したというべきであるから、売買契約に一〇七番二三の土地の表示がないことを理由に前示判断を覆す理由とすることはできない。また、本件売買契約が公簿坪数による取引であることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、「目的物件は現状有姿のまま売買し、後日実測の結果公簿上の坪数に比して増減があっても互に何等異議を主張しない」旨の約定のあることが認められるが、当事者間に争いない事実に≪証拠省略≫によれば、本件売買に際しては本件売買土地の面積が公簿面積より一割二分ないし一割三分広いことは原、被告間で了解され、ただ当時までに正確な実測を行っていなかったため本件売買土地の実測面積は確定されていないため、売買代金額の決定の基準として公簿面積に一坪当り五万五、〇〇〇円を乗じた額と合意されたものであることが認められ、公簿取引の趣旨は代金額決定の基準にすぎず、右代金額は本件売買土地を実測した結果明確にされる実測面積の多寡にかかわらず変更されない旨を合意したにとどまり、本件売買土地の範囲内に他人の権利に属する部分が存在する場合の約定を含むとは考えられないから右約定の存在をもって前示判断を左右するに足りない。

さらに被告は、被告が原告に売渡した土地の範囲は公簿上の地番により客観的に定まる一定の地域の土地に重きを置き売買され、従って一〇七番二三の土地は売買の目的に含まれない旨主張し、≪証拠省略≫中には右主張に一部沿う供述部分があるが、これはたやすく信用できず、他に右主張を認め、前示判断を覆すに足りる証拠はない。

五、以上のとおりであれば、原告は民法五六三条一項の類推適用により本件売買土地の一部の他人の権利に属する部分につき、右面積と売買土地面積の割合に応じた代金減額請求権を有するものというべきであり、原告が右減額請求権を行使したことはすでに判示したとおりであるから以下、右減額代金額につき考える。本件売買土地の面積が公簿上一万三、七四二・〇九平方メートルであり本件売買代金が一坪(三・三平方メートル)当り五万五、〇〇〇円、総額二億二、八六四万三、二五〇円であることはすでに認定したから、その一平方メートル当りの代金額が一万六、六三八円(円未満四捨五入)であることは計算上明らかである。原告は右単価を不足面積四九五平方メートルに乗じた八二三万五、八一〇円をもって減額代金額と主張するが、前示のように本件売買土地の実測面積は公簿面積より広く、≪証拠省略≫によればその実測面積(一〇七番二三の土地部分も含む)が一万五、一六四・三四平方メートル(四、五八七坪二合二勺)あり、右認定に反する証拠はないから、代金減額請求については代金総額を実測面積で除した一万五、〇七七円六九銭(銭未満切捨)に不足面積四九五平方メートルを乗じた七四六万三、四五六円(円未満切捨)を以て減額代金額を考えるのが相当である。

六、そうすると、原告の本訴主たる請求は右金額及びこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四九年二月一六日から完済まで年五分の割合による民事遅延損害金の支払を求める限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、民訴法九二条、八九条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大久保敏雄)

<以下省略>

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